東洋医学では、このように自然界の乾燥が身体にダメージを与えることを「燥邪(そうじゃ)」と呼びます。
湿度が下がり空気がどんどん乾いてくる秋は、もっとも注意が必要なシーズン。
燥邪は肌の潤いも奪っていくので、秋冬の美容面への影響も深刻です。
早めの対策で、乾燥知らずの潤いを目指しましょう。
秋は「燥邪(そうじゃ)」の季節
東洋医学が考える「燥邪」には、体内の津液(水分)を消耗し、とくに潤いを好む「肺」に乾燥ダメージを与えるという特徴があります。
そのため、秋は身体の潤いが不足しやすく、さまざまな乾燥トラブルが身体のあちこちに起こりやすくなるのです。
秋の燥邪(自然界の気候)には大きく分けると2つのタイプがあります。
タイミングに合わせた食材選びもとりいれ、乾燥トラブルを未然に防ぎましょう!
「温燥(おんそう)」
夏の暑さがまだ残っている初秋によく見られるトラブルです。
温燥による不調では、かぜの初期症状のような微熱や寒気、頭痛といったサインから、のどや鼻など呼吸器の乾燥などが現れやすくなります。
「涼燥(りょうそう)」
晩秋になり気温も下がって冬が近づいてくるころに多いトラブルです。
涼燥の不調サインは、強い悪寒や頭痛、体のこわばり、鼻づまりといったかぜに似た不調や、乾いた咳、のどの渇きなどがあります。
秋の食養生のポイントは「潤いを養う」
薬膳の世界では、身体の乾燥を潤す食材は「白い色」をしているものが多いと考えられています。
たとえば、白菜や豆腐、白きくらげ、百合根、えのき…など。
秋はこういった潤す食材を積極的に食べて、体の潤いを養うことが大切です。
「温燥(おんそう)」トラブルの食養生
初秋の時期は、身体に余分な熱がこもった状態で乾燥が起こるため、熱を冷ましながら潤いを養いましょう。
おすすめの食材は、
- 菊花(きっか)
- 桑の葉
- ウーロン茶
- 梨
- れんこん
- きゅうり
- ごぼう
- 大根
などです。
「涼燥(りょうそう)」トラブルの食養生
晩秋に入り、冷えと乾燥が同時に身体に侵入してきやすい時期です。温燥とは逆に、身体を温めながら潤す必要があると考えます。
おすすめの食材は、
- 松の実
- 紫蘇
- ねぎ
- 生姜
- かぶ
- 白ごま
- はちみつ
- 銀杏
- あんず
などです。
おすすめの調理法
スープや煮込み料理など「しっとりした水気の多い調理」が理想です。
激辛料理やスパイスの使い過ぎ、揚げ物などは極力控えると良いでしょう。
身体の内側から起こる「内燥(ないそう)」ケアも重要
乾燥トラブルを引き起こす原因は、身体の外の世界にだけあるのではありません。
じつは、東洋医学では身体の内側にも乾燥の引き金があると考えます。これを「内燥(ないそう)」といいます。
とくに秋は自然界から受ける外からの乾燥ダメージと合わさって、深刻なダブルパンチ状態に…。
内燥にはいくつかのタイプがあるため、ぜひご自身の傾向をチェックして、日ごろから油断せずケアしておきたいですね。
『陰虚(いんきょ)』タイプ
東洋医学が考える心身の潤いの根源に「腎陰(じんいん)」があります。
腎陰は身体のあらゆる潤いの根っこともいえるため、不足すると全身のあらゆる場所に乾燥サインが現れ、また熱もこもりやすくなります。
陰虚は加齢とともに起こりやすく、更年期にも多いタイプです。
≪陰虚タイプに多いサイン≫
痩せ体型、のぼせほてり、肌の乾燥やかゆみ、夕方から熱っぽくなる、ドライアイ、不眠、焦燥感、喉の渇きなど
≪陰虚タイプの養生≫
山芋とろろ・海藻・オクラ・白きくらげなどトロトロネバネバ系食材を食べる、岩盤浴やホットヨガなど汗をかく行為を避ける、夜は早く寝る
『血虚(けっきょ)』タイプ
身体じゅうをくまなくめぐり、全身に栄養を行き渡らせるはたらきをしているのが「血(けつ)」。
この血の機能が低下している状態が「血虚」で、年代問わずとくに女性に多いタイプです。
女性は月経や妊娠出産…と、一生をとおして多くの血を失います。日ごろから血を補う生活を意識して。
≪血虚タイプに多いサイン≫
めまい、疲れがとれない、顔色が青白い、目の疲れ、集中力低下、爪がもろく割れやすい、不眠、便秘気味など
≪血虚タイプの養生≫
棗やクコの実など赤い食材・黒きくらげや黒豆など黒い食材を食べる、レバーや卵など動物性食品を食べる、過労や寝不足を避ける、目を休める
『津液(しんえき)不足』タイプ
全身に分布して身体を潤している水分のことを東洋医学では「津液」と呼びます。
津液不足とは、つまり水分量が低下して乾燥が引き起こされている状態。
夏の暑さによる体力の消耗を秋まで引きずっている人にも多いタイプです。
≪津液不足タイプに多いサイン≫
肌の乾燥、口・鼻・のどの強い乾燥、かぜをひきやすい、のどがいがらっぽく空咳が出る、トイレの回数が少ない、便秘など
≪津液不足タイプの養生≫
梨・大根・白菜・アロエなどみずみずしい食材を食べる、加湿器で部屋の湿度を保つ、汗をかく激しい運動を控える。
体の内側外側からとりいれる秋の養生
毎日の生活習慣にとりいれたい秋の養生として、まずもっとも大切なのが『睡眠』です。
睡眠不足は身体の潤いをますます消耗し、乾燥の悪化を招く原因にも。
とくに東洋医学では、23時にはぐっすり眠っている状態が心身のリカバリーのためにはもっとも理想と考えます。
忙しい現代人にはややむずかしいかもしれませんが、せめて日付が変わるまでにはベッドに入り、夜更かしを控えるようにしてみましょう。
また、乾いた空気は身体の表面、つまり肌に大きな影響を与えます。
肌の潤いを燥邪に奪われないためにも、こまめにハンドクリームを塗ったり、基礎化粧品をしっとりタイプのものに切り替えるなど『保湿ケア』をこころがけましょう。
手洗いや入浴といった肌を濡らす行為の直後は、とくに肌の水分が空気中に蒸散しやすいため、スピーディーな保湿が肝心です。
一般的に、秋は芸術や読書に向いている季節といわれますよね。
東洋医学的にも、アクティブにはしゃいで過ごすのは夏まで、といえます。
秋はだんだんと内省するように心を静めていき、穏やかに落ち着いて過ごすことも、心身の潤いを保つ養生のひとつ。
休日は、家族や恋人など気心の知れた大切な人と、紅葉や月夜をゆっくり眺めたりして秋の空気を楽しむのもいいでしょう。
身体も、心も、秋はしっとりと潤し、実り多き時間を快適に心地よくお過ごしください。